みなさん、こんにちは。本日は欧州のEnd-of-Life Vehicle (ELV) 規則についてみていきます。ご存じの通り2023年7月にELV指令がELV規則へと強化*され、日本でも自動車OEMを中心に、Tier1、Tier2、材料メーカーなど各社がELV規則への対応をとりはじめ、再生材の評価や採用がこの1~2年で急速に進んでいます。このELV規則を皮切りに欧州域外でも自動車に使用される再生材の目標設定が求められるようになるとみられています。例えば日本では今後自動車に使用される再生材の需要量とELV由来の再生材の供給量とのギャップが拡大していく、ELV由来でない再生材も含めて再生材の調達が課題になっていくことが自動車工業会より予測されています(下記グラフ参照)。日本政府も国内の再生材供給能力を拡大するために様々な法改正や投資の促進などを進めています。特にELV由来の再生材の供給量を短期・中期的に拡大することは難しく中長期的にASRのリサイクルスキームの確立やリサイクルしやすい設計の普及が期待されています。
*「指令」は、EUが加盟国に対して目標達成のための国内法の制定を求めるもの。「規則」はEU加盟国全体に適用される強制力のある法律で国内法よりも優先的に適用されます。
一方で、このELV規則はまだ最終法案が確立されておらず、現時点では欧州委員会、欧州理事会、欧州議会それぞれから最終ドラフトが出揃った段階です。これから、この三者による協議で最終法案に向けて修正・合意の議論が行われています。予定ではその最終ELV規則が公開されるのが2025年末頃から2026年上期にかけてと見込まれています。
これまでELV規則の法案化のプロセスの中で欧州委員会、欧州理事会、欧州議会**それぞれでドラフトが作成・公開・修正され、「バイオマスプラスチックの記載が削除された」、「ELV由来の再生材使用比率が緩和された」などドラフトの動向に振り回されてきましたが、ようやく決着がみえてきました。最終法案で対象となる再生材の定義しだいでは、現在多くのメーカーが採用検討を進めているメカニカルリサイクルによる再生材だけでなく、ケミカルリサイクルによる再生材などにも対象広がる可能性があります。
**「欧州委員会」:各加盟国から1名ずつ任命され、EU法案を提起したり、政策を議論したりします。「EU理事会」:加盟国の担当閣僚で構成されています。法案の採択や予算の承認等を行います。「欧州議会」:全加盟国から比例代表で直接選出されます。法案の採択や予算の承認等を行います。
下記チャートは欧州委員会、EU理事会、欧州議会それぞれのドラフトを比較したものです。欧州委員会のドラフトが最も厳しく、EU理事会と欧州議会のドラフトでは段階的な再生材の最低含有量の引き上げが提案されたり、それぞれ固有の緩和策が盛り込まれています。特に欧州議会案では、マスバランス方式が含まれるChain of Custodyと呼ばれる流通過程の管理に関するISO規格が盛り込まれており、ケミカルリサイクルも再生材へ適用がみとめられているという点が大きくその他のドラフトと異なっています。個人的にはELV由来の再生材の供給量を増やしていくには、メカニカルリサイクルではコスト的・技術的にも限界があると考えており、油化やガス化といったケミカルリサイクルの活用が自動車のサーキュラーエコノミー実現のカギになるとみていますが、ELV規則はどうなっていくのでしょうか?まもなく最終法案がでるELV規則からますます目が離せません。

